効果的なエサ
事務手続きを終えた戦友を私の自室へ案内するため、アーキバスの長い廊下を二人で歩く。
この僻地で来客はかなり珍しく、アーキバスの制服を身に纏っていない戦友は注目の的になってしまっていた。
戦友とは10cmほどしか身長が変わらないが、可能な限り背に隠して歩くことにより、なんとか多少は人の目から遠ざけることに成功している。
だが、自室もすぐそこ、といったところで、向かいから見慣れた男が重い靴音を鳴らしながら歩いてくるのが目に入った。
手には端末を持ち、それを眺めている。きっとアセンかログでも見ているのだろう…と、背にいる彼を更に壁側へ隠すように腕で寄せた。
V.I フロイト。戦友とはまだ出会っていないようだが、見つかると厄介だ。
すれ違いざまに、いつものように挨拶をする。
「やぁ」
「ああ」
こちらへ一瞥もせず、端末を眺めたまま歩を進め、戦友の隣もそのまま通り過ぎる。
ほっ、と一息つこうとしたが、その重い靴音が止まった。
思わず口を引き締める。が、気取られないようにこちらは足を止めない。
それも意味がないようだった。
「待て」
静かな廊下に彼の落ち着きながらもよく通る声が耳に入る。
諦めの悪い彼から逃げるのは無理だと判断し、後ろへ振り向いて戦友の前に立った。
「どうしたんだ?君から声をかけてくれるなんて、珍しいじゃないか」
端末を下ろして、彼の人差し指がこちらを指した。いや、背中にいる戦友に、だ。
「後ろの、匂うぞ」
「おっと。彼は誤解されやすいんだ。君がクサイという意味ではないよ」
後ろを振り向かず、あくまで背に隠したまま会話を続ける。
「俺に知られたくない、お前のお気に入りなら一人しかいない」
相変わらずの勘の良さに内心舌打ちをして、思わず表情を消してしまう。逆に表情に感情をを見せなかったフロイトの口角が上がった。
「独立傭兵レイヴン。ハンドラー・ウォルターの子飼い。…ログの映像を見ただけで興奮してたまらなかった。今すぐにでもやり合いたい。スネイルにはお預けを食らっているが…黙っていればバレないだろう」
「いやバレるだろう。分かってて言っているな、君」
背後をちらりと覗き見るが、戦友は我関せずといった様子で立ち尽くして状況を観察していた。
「…この通り彼は人見知りでね。では失礼」
再び振り向き戦友の肩を持とうとしたところで声がかかる。
「今から俺とやり合うなら、ハンドラー・ウォルターが木星にいた頃の画像をやろう」
「!」
まずい、と思った時には遅かった。
棒立ちしていた戦友は、いつの間にかフロイトの目の前にいて連絡先を交換している。
「戦友!彼は君の教育に良くない!」
「よし。ついてこい」
慌てて戦友の肩を掴むが、振り返った戦友にやんわりとその手を下ろされ、手を掴まれたまま引っ張られてしまう。
「お前ともやり合いたい。V.IV」
「ああいいな。三つ巴ができる」
「全く君は……!」
それでも戦友からのご指名が嬉しくなってしまうのは、いくらなんでも絆されすぎだろうか。
*
「ちなみに彼に渡した画像はどこで手に入れたものなんだ?」
「アーキバスのデータベースに決まっているだろう」
「社外秘!」