壊された平穏
少ない足場をもろともしない四脚が滞空しながら弾幕を張る。重量機の厚い装甲でそれを受け止めながらアサルトライフルを放ち接近、ブレードで切り付けようとするがクイックブーストで逃げられてしまう。すい、と頭の上を通り過ぎるバレンフラワーに内心舌打ちをした。
「人として死ね、それが救いだ」
両肩からミサイルが放たれる。クイックブーストで着弾直前に後方へ避けた。壁際にいたバレンフラワーへランチャーを放ち、壁に当てて爆風で装甲を削る。EN回復のために降り立ったそれにブレードを叩きつけた。
「お前には俺が人に見えているのか?」
「お前は人だろう。違うのか?」
スタッガーをとれなかったバレンフラワーが至近距離で銃弾を撃ち込み、関節に複数被弾して振動がコックピット内に響いた。
「分からない」
「少なくとも、」
ふわ、と浮かび上がったバレンフラワーは、少し奥にある通路へと足を下ろす。
「迷うのであれば人だ。こちらへ来ないか?平穏とは何たるかを教えてやるくらいのことはできる」
「…」
『…レイヴン、私はあなたの選択を尊重します』
銃口を床へ下ろした。
「うちへ来い」
「…ああ」
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V.IIIのセーフハウスだという場所へ招かれて椅子へ座る。簡素な部屋だが、観葉植物の模造品が飾られていて、灰色の部屋にあるそれがやけに目についた。
狭いキッチンでフィーカを淹れたV.IIIは、それを二人分机の上に置く。
「なぜオールマインドに従っていた?」
泥のようなフィーカをひとくち飲む。苦さしか感じない。
「…わからない」
「…脳の回路を弄られたか?あれはCOMの管理も握ることが可能だ。少し確認するぞ。いいな」
そう言いつつ部屋の隅にあったコンテナからいくつか装置を引っ張り出してきた。フィーカの横にそれが置かれ、機械を弄り始める。
「可能なのか」
「諜報部所属だからな。強化人間から情報を奪うのは骨が折れるが、生身の人間よりはどうにかできる。お前のような旧世代の強化人間でも、脳を弄れば簡単に吐く」
機械から端子をこちらへ伸ばし、ACと繋がる際に使用する首に開いた接続部へ挿入される。視界に表示される画面から様々な情報が流れてきた。専門ではないのでいまいち何が表示されているのか分からない。
「生身の人間は?」
「拷問だな。だが意志の強い人間は死んでも吐かない。これが強化人間との差だ」
「……」
ふむ、とV.IIIが自身の顎へ手を添えた。
「ああ、やっぱりか。一度強制停止するぞ。いいな」
「……ああ」
3つのカウントダウンの後、ブラックアウトした。
C4-621、起動。通常モード移行。
視界は途切れる前と変わらず、だがあのやたらと多い表示画面はどこかへ行っていた。首の端子も外されている。
機械を片付けているV.IIIへ目を向けた。フィーカはすっかり冷めていて、あいつのは飲み終えてあった。
「傭兵支援システムを使うのはやめておけ。また弄られるぞ」
だがあれがないと仕事ができない。
今後どうするつもりなのだろうか、傭兵は辞めてただの民間人になれとでも言うつもりか。
それよりも気がかりなことが一つある。
「ウォルターはどうしている」
「…生きている。だがもうお前は不要のようだぞ。ドーザーの連中と…いやあそこのトップと連んで何か企んでいるようだ」
「不要…」
ずし、と胸の奥が重くなった。
V.IIIの目の奥が光る。
「…平穏を教えてやると言ったが、お前の元ハンドラーを野放しにしておくのは嫌な予感がする。やれるな?レイヴン」
「…ああ」
やらなければいけない。どうしてか、分からないが。
「僚機はラスティを呼ぼうか。お前らは相性が良い」
「……」
そういえば先ほどからエアの声が聞こえていない。
「俺は後方でサポートに徹する。作戦をまとめるから少し待っていろ」
「……」
ウォルターを殺さないと、いけない。
胸の奥から湧き立つその使命感に突き動かされて、両の手で視界を覆った。
頭が、痛い。