大人しくしたご褒美

アーキバスと懇意にしている独立傭兵およびそのハンドラーたちとのパーティが開かれている。
立食形式の食事会は、主に仕事の話がメインとなり食事は軽くつまめるものしか出されていない。
そして仕事の話はウォルターが主に受け持つのでやることがなかった。独立傭兵同士で仲良くしようと行動するような友好的な人間はおらず、他はオペレーターと会話していたりする中、隅の方で会場内を観察する。

ウォルターが「ここにいろ」と言ってどこかへ行ってから軽く20分は経っていた。同じく暇そうにしている独立傭兵たちのアセン情報をエアに貰いながら暇を潰す。

気が抜けて眠くなってきた頃、背後に忍び寄る影があった。
その気配に察知できずそのまま肩を組まれてしまう。エアが軽く悲鳴を上げた。
「レイヴン、暇そうだな」
振り向くとV.Iがいた。

パーティ開始時のヴェスパー部隊主席代表としての挨拶をしていたV.Iは、その時の大人しそうな気配を纏っていない。肌に当たる殺気は喧嘩を売られている気分だった。
「抜け出さないか?退屈はさせない」
「…ウォルターに許可をとる」
どこへ行かされるのか不明だが、ハンドラーの許可は必要だ。
「お前のハンドラーはスネイルとその上の奴らに捕まってる。あれは長くなるぞ。その間ここで突っ立っているつもりか?」
それなら立っているしかない。頷こうとしたところで、向かいからすらりとした男が歩いてきた。
「フロイト、戦友が困っているじゃないか。離してやれ」
V.IVだ。先ほどまで話していた女や男たちは撒いたらしい。
「お前でもいいぞ」
「はぁ…全く。抜け出すと後が面倒だぞ。きみはもう少し我慢を覚えた方がいい」
「今日は我慢した方だ。ご褒美があってもいいと思わないか?」
だろう?と目配せされる。知らない。
「戦友、相手をする必要はない。きみはこちらで私と話さないか?」
そう問いかけながら腰に手を回されて流れのまま歩く。あまりにも自然に誘導する所作に感心した。
V.Iが後ろから声をかける。
「知ってるか?こいつはまだ俺に勝ったことがない」
V.IVが足を止めた。
少し上にある顔を見上げると、目が伏せられる。
「模擬戦で本気を出す必要はないからだ」
「負け惜しみか」
「きみの挑発には乗らないぞ」
V.IVの反対側に来たV.Iは、再びこちらの肩へ腕を回した。
「レイヴンはどうだ?俺とこいつの戦いを見たいか?」
考える。
「戦友…?」
困惑したようにこちらへ目を向けるV.IVを見返した。
「…見たい」
「…………」
眉を下げながら口角を上げ、明後日の方向を向いたV.IVは、口元を手で覆った。器用な事をするやつだ。
「決まりだな」
「仕方ない。戦友にいいところを見せようかな」
複雑な表情は止め、ウインクを送られた。

ウォルターへはヴェスパーの番号付きと出かけてくると一報入れておき、パーティ会場から出て車に乗り込む。さほど遠くない位置の拠点にシュミレーターがあるらしい。
その辺でACに乗る方が良かったとゴネるV.Iに、V.IVがそれだと即バレて戦いにならないと嗜めた。



ロックスミスとスティールヘイズが激突する。
実力者同士の戦いは見ていて高揚する。実際に戦っている方は比じゃないだろう。
良い戦いだったが、最後にはギリギリV.Iが勝利した。

『普段手を抜いてるのは分かっていたが抜きすぎだろう』
オープン回線で愚痴を吐かれる。画面に映るV.Iの表情は少し口角が上がっていた。楽しくはあったらしい。
『負けてしまったか。戦友はやはり強いAC乗りの方が好きかな?』
特に悔しそうではないV.IVの問いかけに返答する。
「…V.IVは良くしてくれるから好きだ」
それを聞いてV.IVは嬉しそうにニコニコしていた。
V.Iはどうでもよさそうに急かす。
『次はレイヴンだ。早く交代しろ』

その後ロックスミスに一度勝ったあとも何度か挑まれて、気がつけば一時間は経っていた。
どうやって場所がわかったのか不明だが、シミュレータールームにV.IIの怒声が響いたことで対戦は中止となる。

会場に戻ってパーティが終了した後、なぜか俺も含めてV.IIの長い説教を聞かされる羽目になった。

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