疲れた時の癖
夜間哨戒中に発見した遠方の不審な光を確認しにいけば、放棄されたグリッドにいつの間にか住み着いていたドーザーたちがコーラル酔いで騒いでいる最中だった。
ただ騒ぐだけなら問題なかったのだが派手な花火をし始めたので、近くにある居住地が危険に晒される可能性が浮上する。そうなると彼らを止める他なく、外部スピーカーを用いて大人しくしろと説得を試みてみる。━━が想定通り失敗。武力制圧止むなしの状況となった。
ドーザー達の数の暴力は軽量機の機動力をもっても辛いものがある。かすり傷でも塵も積もれば山となるのでスタッガーが取られないようにヒットアンドアウェイの要領で1機ずつ撃破していく。…いつかの戦闘を思い起こさせた。
どこから湧いて出てきているのか分からないほど次から次へと発生するドーザーたちの機体を全て撃ち落とした時には夜明けの太陽が背後から刺していて、なぜかドーザーたちは歓声を上げていた。途中から所謂闘技場のような雰囲気になっていたのは感じてはいたのだが、撃破されなお生き残っていた彼らは、私かドーザー勢力どちらが勝つか賭け事をしていたらしい。
歓声を受けながらため息をこぼす。「せめてあそこの居住地に被害がないように騒ぐんだ」とひとこと苦言を呈すると、「アニキにそう言われちゃあ仕方ねぇ」とのことだった。骨折り損のくたびれもうけではなかったようで、それだけが救いだった。
そんなこんなで疲労困憊のまま徹夜で拠点へ戻った後、回らない頭でなんとかシャワーで汗を流してベッドに倒れ込み意識を失った。
*
哨戒中のラスティからフラットウェルに届いた『ドーザー制圧開始連絡』はこちらの端末にも届いていて、恐らく問題はないが何かあれば必ず連絡をするようにする、という言葉を信じ出撃する準備をして帰りを待っていた。
夜が明け窓の外から淡い光が室内を照らすようになった頃、重く鋭い音が地鳴りのように部屋へわずかに振動を与える。居住区内では格納庫から1番近いこの部屋は、ACの出撃と帰還がこの音と衝撃により分かるのだ。
つまりはラスティが帰ってきた。
いつの間にか祈るように組まれていた指を解き、湯を沸かそうと立ち上がる。
疲れた体にはお湯が沁みると彼が前に言っていたからだ。
暫くして電子音と共に部屋のドアがスライドし、振り返るとラスティがこちらに目もくれず服を脱ぎ散らかしながら一直線でシャワールームへと向かって行った。
珍しい、と思う。彼はこちらの顔を見ればどんな状況であれ必ずひとこと挨拶をするからだ。そういえばさきほどは目も合わなかった。もしかしたら存在を認識されていない可能性がある。寝ていると思われていたのかもしれない。
総合して考えると、かなり疲れているようだった。
シャワールームへ向かう途中に落とされた服を拾い上げる。ジャケット、シャツ、ベルトのついたままのカーゴパンツ、靴下、下着。
ジャケットはハンガーに掛け、カーゴパンツからベルトを引き抜き、ベルトは丸くしてキャビネットの中へ仕舞う。シャツとカーゴパンツと靴下と下着は洗濯機の中へ放り込んだ。洗うのはラスティが寝て起きてからの方がいいだろう。大きな音で起こしてしまうかもしれない。
ちょうど沸いたお湯をカップに入れ息を吹きかけ人肌まで冷ましていると、シャワーを終えたラスティが下着のみを纏って脱衣所から出て来た。適当にタオルで水気を拭っただけであろう、水分の含んだ髪が重力に負けてへたれている。
いつもなら下着一枚で出てくるようなことはなく、髪もきちんと乾かしてから出てきているので初めて見る光景であった。
ラスティはそのままベッドへ一直線に歩き、倒れ込む。スプリングで1度体が跳ね、そこから彼は動かなくなった。
近くへ寄り観察をする。
呼吸は安定している。風呂上がりなので肌はしっとりとしているようだ。髪はそのまま寝るには水分を含み過ぎている気がする。空調である程度の室温は保っているが、下着一枚で掛け布団も無しという状況も、風邪を引く原因となるだろう。
キャビネットからスウェットを取り出し、彼の重く上手く動いてくれない体に苦戦しながらなんとか上下着せてやることに成功した。
次は髪だ。
ドライヤーを脱衣所から持ってきて、ベッド横にあるコンセントへ挿し込む。電源をオンにして温風を彼の髪へ吹きつけた。
髪の間に指を通す。梳きながら温風を当てていくと、徐々に髪から冷たさがなくなっていく。
温風を当てる箇所を変えていき髪の指通りの感触に面白くなっていると、いつの間にかベッドに押し倒され手は顔の横に、ドライヤーは床へ落ちていた。
ゴー、というドライヤーの音が部屋に響いていて、一瞬時が止まったかのようにラスティが静止する。
「え、あ、戦友…?」
目を丸くしてぱっと手を離したラスティは自身の姿を見た。直前の記憶がまだ戻っていないらしい。
「君が髪を?ありがとう…いや、なぜだ…?」
上体を起こすとラスティが上から退く。ベッド下のドライヤーを拾ってスイッチを切った。
「お前が帰ってきてシャワーを浴びて髪を乾かさずに寝たから対処していた」
「え……」
ラスティは黙り込んだ。
暫くして徐々に頬が赤くなっていく。
「…脱衣所ではなく、部屋で服を脱いでいたか?」
「ああ」
「嗚呼っ…!!」
手で顔を覆ってベッドに突っ伏してしまった。隠れていない耳が赤い。
うーだの、ぐぅだの、呻くラスティの髪が光に反射した。そういえば髪を乾かしている途中だった。
ドライヤーのスイッチをオンにして、ベッドに顔を突っ伏したままのラスティの髪へ吹き付ける。同時に髪の指通りを堪能すると抵抗なく受け入れられた。
もし自分以外の誰かが部屋にいたらまずかったんじゃないか、とか、目を覚ますにしても遅すぎる、とか、言いたいことはいくつかあったのだが、既にうつらうつらとしているラスティには言う気にならなかった。
髪が乾いたのでドライヤーのスイッチを切る。
眠りについたらしく、突っ伏したままのラスティから穏やかな呼吸が聞こえてきた。掛け布団をかけてやり、自身のベッドへ戻る。
次の任務までまだ20時間ほどある。
目を閉じて、睡眠へと移行した。