夜の訪問者
翌日早朝より行われるアーキバスから依頼された任務を遂行する為、621はスネイルに許可をとりアーキバスの前哨基地にある輸送機に前日入りしていた。
明日の任務に向け輸送機は621の貸切となっており、ACは格納庫へ、寝室へは既に簡易的な宿泊の用意が621により持ち込まれている。
621は個人端末からハンドラーとの定期連絡を終えると、お湯を一杯飲んで眠りにつこうとベッドに潜り込んだ。
瞼を閉じて思考がぼんやりとしてきたところで、来客を知らせるチャイムが鳴る。
『レイヴン、V.Iフロイトです』
「わかった」
621はベッドから出てジャケットを羽織り、冷たい空気が刺す格納庫へ向かい、そこで内と外を隔てている重い扉を開けた。
外からより冷たい空気と共に雪が吹き込んできて思わず目を細めていると、目の前にいたフロイトはずかずかと中に入ってきて素早く扉を閉める。吹雪のせいか全身に付着している雪を払い、目元だけ隠れていた重装備からマフラーの口元だけ下げ一息つき、621を見据えた。
「レイヴン。ヤるぞ」
621は一瞬、思考を白くさせる。
「何?」
フロイトは手袋を外して、冷たい手で621の手を掴んだ。621は体温が低い方なので、特段それを冷たくは感じなかったが、急なことに目を白黒とさせる。
「漸く会えたかと思えば23時だ。今から模擬戦を始めると朝になってしまうだろう?睡眠不足でACに乗るのは自殺行為だ」
フロイトは手を引いて、格納庫の螺旋階段を上がっていく。寝室へ向かっているのだろう。
ACでやり合うという意味でないなら何なのか。621はまさかと思いつつも疑問を投げかける。
「…ヤるというのは、性行為を指しているのか?」
「そうだ」
「…それをする仲ではないと認識していたが」
「俺は付き合ってなくてもヤりたかったら誘うぞ」
「そうか」
まぁそういう人間もいるだろう、と621は納得した。
手を引かれながら621は考えた。正直乗り気ではない。性行為の経験は無いし、必要性も感じない。突然降って湧いたような提案になぜフロイトがそういう考えとなったのか理解ができなかった。
「……なぜ性行為なんだ」
「今日はそういう気分だ」
寝室の前につくと、フロイトはらしくなく、律儀に部屋に入らずに621へ振り向いた。
いつものように遊びに誘う時の軽々しさで、むしろそれよりも軽いとすら感じるほど、熱のない目をしていた。衝動的に、感情が昂って、というよりは好奇心が大半を占めているようである。621は特にその機微に気付かず、気まぐれで言っているのだろうなと勘で結論付ける。実際それも当たっているのだが。
「嫌だというならしない」
「…………」
既に友人と称しても差し支えないほどフロイトとACで時間を過ごしている621にとって、体に触れられることに嫌悪感は湧かなかった。更には、遊びを優先させるこの男が再起不能になるほど手酷くするとも思えない。仕事に影響がない、つまりハンドラーに迷惑がかからないなら、拒否する理由が今のところ浮かばなかった。
「構わない」
「決まりだ」
にっと笑ったフロイトが、不意をつくように621にキスをした。
*
準備をしておけとシャワールームに押し込まれ、所謂準備とやらを済ませた621がベッドに座って待っていると、同じくシャワーを浴びてきたフロイトが前髪を掻き上げながら帰ってきてベッドに押し倒される。
「希望はあるか?」
「ない」
「じゃあ好きにさせてもらう」
エアは楽しんできてくださいね、などと軽く言って621を置いてどこかへ行ってしまった。
フロイトは621を転がしてうつ伏せにさせ、鞄から取り出したボトルから粘性のある液体を手に広げた。体温まで温まったそれを621の尻の穴へ塗り込む。
ひく、と621が喉を引き攣らせた。他人に触られないような場所だ。僅かに眉間に皺が寄る。
だが621により洗浄済みのそこは受け入れられる状態になっていて、骨ばった中指がゆっくり沈められていった。
「う……」
「レイヴン、今日のアセンは?」
「KASUAR 44Z、NACHTREIHER 40E、EL TA 10 FIRMEZA、EL TL 10 フィルメザ、」
一般的にはまるで情緒のない質問であったが、621は性行為中にどのような会話をするのかなど知らないので律儀に回答する。尻の違和感に意識を取られつつも、格納庫のACを思い出した。
太い指が二本に増えて水音が大きくなり、液体を追加された621は喉を震わせた。
「ランセツ、…AR、RF、ダガー、二連双対ミサイル、」
三本となり、うなじをざらりとした舌で舐め上げられる。やけに楽しそうなフロイトとは対照的に余裕のない621はまた喉を引き攣らせて、続けた。
「…アルラ、VP 20S、タルボット…」
「いいな。今度もそれで来い。やり合いたい。明日は生憎朝から仕事だ」
「…ああ…わかった…」
ゆっくり指を引き抜かれ、621が僅かに振り向くと、いつの間にそうなっていたのか臨戦態勢となっているフロイトのそれに、避妊具が被せられているところだった。
「挿れるぞ」
「ああ」
再び前を向いて体を脱力させた621は、先端をあてがわれて自然と体が硬直するが、入念に慣らされたそこはぬるついていることもあり、吸い付くように受け入れていく。
「はぁ…っ」
未知の質量が肉を広げる感覚に621は息が詰まった。
ゆっくり、ゆっくりと中が埋められていき、互いの額に脂汗が滲む。耳の奥でどくどくと自身の鼓動が聞こえた。621の背中にぽたりとひと雫汗が落ちる。暖房が煩わしくなるほどには体が熱く、燃えているようだ。
どれくらい時間がかかったかはただ受け入れることに必死だった621には分からない。漸く全てが中に収まったことが分かったのは、621の尻にフロイトの腰がぴったりと密着した時だった。
621の肩に額を押し付けたフロイトは、熱い息を吐く。
ほてった頭でも621はフロイトの様子がいつもと違うことに違和感を覚え振り向くと、ロックスミスを連想させる瞳と視線が交差した。
キスでも欲しいのかと逡巡したフロイトだったが、621がキスを強請るとも思えず、顔を覗き込む。
「どうした」
「戦闘時と、やけに違う」
「ん?」
それが普段戦っている時のような苛烈さがないという意味だとフロイトは理解する。
「お前と気持ち良くなる為にヤってるからな」
「…そうか」
幾分か余裕の出てきた621を見たフロイトはゆっくりと抜き差しを開始した。腹が圧迫されたり空くような感覚になったり忙しなく与えられる初めての感覚にいっぱいいっぱいになって、621は息をすることしかできない。
出たり入ったりするたびに空気を含んだ体液が音を立てて鼓膜を刺激する。
フロイト普段であれば経験のない人間は面倒だから相手にすることはない。だが621とセックスをしたらどれほど満足できるのだろうかという好奇心が勝りこうやって抱いているのだが、大人しく抱かれている621を見たらそれだけで胸がいっぱいになった。
初めての感覚に口角を上げ、621と遊ぶことで与えられる未知の領域に舌舐めずりをする。この男とは、何をしても飽きない。そう確信した。
「馴染んできたな」
中の締め付けと滑りがちょうどよくなってきたところで、少し腰を引いたフロイトは、先端をベッド側に軽く押し付ける。
じんわりした快感が押し付けられたそこから全身に回り、つい621はシーツを握りしめた。
「う…?」
「前立腺だ」
マッサージされるように柔く押し付けられ、器用に腰を回し捏ねられ、鈍い快感が全身をじとりと侵食していく。丹念にそこだけを重点的に先端でマッサージされ、621の息が徐々に上がっていった。
「はぁ…はぁ…フロイト…」
「どうした」
「長い…」
「お前の反応が良くなるまでやるぞ」
「何…?早く終わらせてくれ」
「それは無理だな」
強い刺激を与えないように極めて小さく、とんとんと断続的につつかれるような動きに変わる。
それだけなのにびりびりした刺激が腹の底から背筋を通って脳の思考を奪っていった。
「は、はぁ、う、ンッ、うう…」
「気持ち良いな」
突かれるたびに締め付ける中はフロイトにも良い快感を運んでいて、浅く突きながら上体を倒したフロイトは、621の耳たぶをやわやわと噛んだ。
それにより鼓膜に直接与えられているかのように錯覚する吐息が脳を更に侵食していく。621はこの男の声が好きだった。
「フロ、イト、」
「なんだ?」
耳元で囁かれ、中がきゅうと締まる。
「そろそろ、…」
「ああ。いつでもイっていいぞ」
与えられる刺激は変わらないのに、断続的に与えられるそれにより腹の奥に溜まっていっていたものがついに大きく弾けた。
「は、フッ〜〜──ッ!!」
びくびく跳ねる体を後ろから抱きしめられる。前立腺を捏ねていた先端が奥まで入ってきて、今度は奥をとんとんと継続的に突き、絶頂中の体にそれが刺激となって届く。
「はぁっ、は、ぁ、アッ、」
また少し抜かれて、先端で前立腺を捏ねられ腰が跳ねた。
「ぁ"ッ!んぐ、またっ…!」
二度目の絶頂に頭が真っ白になり腹のあたりがどろりと濡れる。ずっと快感の波が押し寄せてきて、体の痙攣が治らない。イってもマッサージをとめてくれない。621は混乱しながら頭を振った。
「まて、フロイト、やめろ」
「ん、もう少し弱いのが好みか?」
先端が奥まで入ってきて腰全体を使ってゆるく揺さぶられる。体が揺れて、柔らかい刺激が腰骨や、腹や、布団に擦れる陰茎を刺激して、先ほどと違った感覚に頭がふわふわとしてくる。
上からの重さで前立腺も軽く刺激されて柔い痺れが走る。
「は、ふ、ぅう」
621は必死にシーツにしがみついて枕に額を押し付けているが、柔くなった快感が途切れることはない。
フロイトは早く奥を無理やりにでも揺さぶりたい欲を抑えながら唾液を飲み込んだ。自分自身でこの男を塗り替えているという高揚感が頭を煮立たせる。快感でどろどろにしても媚びてこないところが更に気に入ったし、同時に気に食わなくもあった。621に求められたいという奥底に僅かに存在した、今まで知覚したことのない感情が引き摺り出される。
ここで止めた時の反応を見てみたかったが、フロイト自身が止めることができなくなっていた。
621はフロイトから継続して与えられる刺激に徐々に上り詰めたものが脳で弾け、無意識に横にあるフロイトの頭に額を擦り付けた。
「ンン……ッ!!」
621はフロイトの大きい手で頭を撫でられて、それも気持ちがよくて多幸感で思考がトぶ。びくびく震える体は上から押さえつけられて呼吸もできず、思考が真っ白の脳は痙攣したままの体に身を委ねることしかできず、ようやく全身が脱力した後、肺の底から息を吐き出した。
「はぁーーっ、はぁっ、はぁっ」
「そろそろ俺もイきそうだ」
奥で静止し中の収縮を感受していた腰が、明確に力強さを増す。強い刺激が腹の底から頭のてっぺんまで駆け巡って621は喉をのけぞらせた。
肌がぶつかる音と二人の呼吸音と漏れる声とベッドの軋む音が部屋をじっとりと満たし湿度が増していく。621はされるがままで何も考えられなかった。
「イくぞ」
獣が唸るような低い声が聞こえて、一気に引き抜かれ、一気に差し込まれたそれが前立腺を抉って通過し奥に叩きつけられる。
一番強い刺激が与えられ体が弓形に反る。ただ大きい快感に体の制御ができず、視界が白黒に明滅し、もがいてシーツを足先で蹴っても逃れることができない。過ぎゆくのを待っていることしかできなかった。
硬く貫かれたそれがひとつの生き物のように脈打ち、勢いよく放たれるものを感じる。一枚薄膜を隔てているのに、鮮明に体にその感覚が刻み付けられた。
互いに動きを止め与えられる感覚全てに感じ入る。
息を吸えるようになったのは同じタイミングだった。
フロイトは上体を起こし前髪を掻き上げ、ゆっくりと奥から引き抜いた。621はそれに無意識に腰を跳ねさせ、脱力する。
「ふぅ…レイヴン、気持ちよかったな」
「ああ…だが、一度でいい…」
顔を横にしてぼんやりした瞳を覗かせた621に、フロイトは汗で額に張り付いた前髪を横に流してやった。
「イくのがか?」
「酷く疲れる」
「そうか。でもよく眠れると思うぞ」
621は漸く解放された体はまだじわじわと燻るものがあり、嗜めるようにもう一度深く息を吐いた。体が重く、布団に沈み込むようだった。ACを駆った後とは違った疲労感が体を襲う。
「またヤろう。ACでやり合った後もいいな」
「元気だな…」
「そのうちお前も体力がつく」
「…勘弁しろ」
この後二人でシャワーを浴びさっぱりした後、仲良く同じベッドで眠りについた。
味を占めたフロイトは、宣言通りAC戦後に誘うことも増えるのだが、621が一度で満足することは無く、フロイトは内心ほくそ笑むのだった。