瞳
独立傭兵でありながら一時的に解放戦線の一員となって、部屋はラスティと同室に、ベッドは各々のものを用意された。
だというのに任務から帰ってきたらラスティが俺のベッドで寝ている。何故だ。間違えたのか。
「ラスティ」
声をかけても起きない。
「……」
肩を揺らしても起きない。
さて、どうしたものか。
ラスティのベッドで寝てもいいのだが、ふとすぐそこにある端正な顔…らしい彼の顔が目に止まった。
鼻筋が通っていて薄い唇がたまらない、ということを通りすがりに女性が話しているのを聞いた。切れ長の目はまつ毛が長くて、そこから落ちる影や笑った時に目の下にできる皺がまた良いのだとか。
「……」
しゃがんで顔の高さを合わせる。
人間の顔はただの識別記号でしかないが、それでも確かに好ましい、と思った。美醜は分からない自分でも、自然と惹かれるものがある。
だが、今は彼の機体と同じ色の瞳が見えていない。
あの色は、特に好きだ。
そう思っていると、瞼が開かれてお目当ての瞳が顔を出した。
細められる目の下に皺ができる。ああ、これのことか。
「そんなに見つめられると気恥ずかしいな」
「すまない」
そう言いつつも彼はベッドから退くこともなく、そのまま真っ直ぐと見つめ合う。
こちらへ伸ばされた手は、少し伸びた前髪を横に流した。
「君の黒い瞳は宝石のようで美しいな。こんなに近くで見たのは初めてだ」
強化人間であるから、お互いに自前の目ではない。様々な情報を視覚に映し出すことができる機械化された瞳だ。
だが、当然本物と大差なく作られているそれは、本来持っていた瞳と同じ色付けがされている。
「ああ。ラスティの瞳も、お前の機体のようで美しい」
面食らったようにラスティがぱちくりと目を瞬かせる。
「そう、思っていたのか」
「ああ」
苦い表情をして視線を外した彼は、上体を起こした。
「……フラットウェルが、そう簡単に口説き文句のような言葉を使うべきではないと言っていたが…漸く意味が分かったよ」
「どういう意味だ?」
「心臓に悪い」
「?」
「君もそういうことは私以外に簡単に言ってはいけないよ」
「どれが"そういうこと"にあたるのか分からない」
「そうだな…実はというと私もよく分かっていない」
「…ラスティにも分からないことはあるんだな」
「あるさ。たくさんね」
例えば、と続ける。
「君が私をどう思っているか、とかかな。教えてくれるかい?」
「ああ。好きだ。ここにいる誰よりも」
ラスティはその端正な顔を大きな手で覆った。
「……戦友、それだよ…」